楼主
春
はるがきた
はるがきた
いまひるちかく
いとのやうなでんせんにとまつてつばめがには
めづらしさうにあたりを
きよろきよろみまはしながら
なにかぺちやくちやさへづつてゐる
いちはのつばめは
あをぞらをきり
むぎのはたけをひくゝかすめて
もうみえなくなつた
あゝいゝ
いきいきとしたねぎやそらまめ
なたねのはな
ぞつくりとほのでかかつたむぎぐさ
みんなこゝではうつくしく
なんでもこゝでは
しみじみとしんじつをこめ
みよいちめんにもえたつばかりだ
はるがきた
はるがきた
けふのやうなよいてんきでは
のびのびとすべてが
かうふくでそしてかなしい……
かはむかふのをかをみると
としよつたのうふがつかれたらしくはたらいてゐる
なにかたねでもまかうとするのか
なんといふおもさうなくわだ
しつとりとしたあまじめりのはたけのつちは
ほりかへされてくろぐろと
むくむくともりあがり
こえふとり
ちいさなちいさなまるでごみのやうなはむし
むすうのそれらまでがせはしくうごき
とろりとしたこのあぶらのやうなひかりのなかでいきてゐる
あちらのまちのしづかさはどうだ
やねとやねとのかさなり
そのうへのどんよりしたそら
たいやうはどこにあるのか
すべてがいううつで
ねむさうで
よろよろといまにもとろけさうにみえる
どこかであかんぼがないてゐる
うまれたばかりのやうで
とほいとほいぢべたのなかからでもくるやうなこゑだ
それがあをあをとしたはたけをこえ
まつかぜやなみのおとにまじつてきこえる
さびしいほどしづかなひだ
さかんなかげらふだ
おおこのからだのふかいひゞよ
そのかすかないたみ
そしてそのひゞからのびだすあたらしいのぞみのめよ